アイテム&技SS 友情の証、戦士の決意

ザナクラウスは一人ラボの外で煙草を吸っていた。彼はもともと、よく煙草を吸うタイプだったのだが、シディアとのあの事があってからただでさえ多い喫煙量がさらに増えているのだった。ザルツやリナにも、「体壊すからやめたほうがいい」と言われているし、本人も意識している。
だが、ザナクラウス本人曰く、「煙草吸ってないとやってられない」らしく、喫煙量は増えるばかりなのであった。
そんな中で、彼は一人つぶやく。
「俺は…彼女を助け出せるのだろうか……」
やはりシディアのことが気になるようだ。彼がそう思うのも無理はない。というのも彼女が全然ラボに戻る気配を見せないし、一切の連絡が取れないからだ。
しばらく考えて、彼はラボへと戻り、ザルツ達にこう言った。
「悪い、俺、ちょっと出かけてくる。…一週間くらいラボには戻らないかもしれない。」
「……いったいどこへ行く気ですか?」
「かつての友人のところだ。すこし気持ちの整理をつけてくる。」
「…解りました。でも、早く戻ってきてくださいよ。あなたに手伝ってほしいことが山ほどあるんですから。」
ザルツも彼の気持ちを理解した様子で言う。
「迷惑ばっかかけてすまないな。整理がついたらすぐに戻る。」
そういって、ザナクラウスはラボを飛び出していった。

彼の目的の場所へは、大体ラボから2日で到達した。歩けば相当の時間がかかるのだが、炎龍を呼んだため、2日でたどり着くことができたのだ。
そこは、人の気配も一切無い、冥界のB世界にある小さな山地であった。風が絶え間なく吹いている。そんな山地を、彼はたった一人で登っていった。
「久しぶりだな…この山を登るのも。」
彼は歩きつつこう言う。そして、山頂にに到達したところで、ひとつの小さな墓が彼の視界に入った。彼はその墓のもとへと走ってゆく。その墓には、こう刻まれていた。
「カルロス=ヴェイファール、ここに眠る」
カルロス=ヴェイファール、それは彼の先輩に当たる人物であり、無二の親友、そして彼の恋人であるサラの兄であった。
しかし、その彼はもういない。
ザナクラウスはその墓を見つめつつ、話しかけるように言った。
「…久しぶりだな。カルロス。そして…カルロス先輩。…唐突で悪いが、ひとつ聞きたいことがあるんだ。」
彼はその言葉に続けて、こう言う。
「…俺は…今、過去の罪を償おうとしているのか?それとも、また過ちを犯しているのか?教えてくれないか…カルロス。」
墓に話しかけても、何も答えは帰ってこないのはわかっている。しかし、彼はまだ続ける。
「……そう…だよな。お前は最後に「信ずるものは、命を投げ出しても救うべきだ」って言ったんだよな…わざわざ訊く必要もなかったな。」そういって、地面に座り空を見上げるザナクラウス。上空には鮮やかな満月が地面をてらしている。ふと横を向いて墓石を見つめる。その墓石には、見たことの無い文字が刻まれていた。

「ザナクラウス、もしお前がこれを見たら、俺たちが初めて会った場所まで来てくれ。念のため地図もここに刻んでおく。  カルロス=ヴェイファール」

「……何だこれは?」
彼はこの言葉に覚えが無い。かつてに一度ここに来たことがあったが、そのときにこの言葉を見落としていたわけでもない。明らかにその後で誰かが人為的に刻んだものである。誰がこの文字を刻んだのかはわからない。
「………どういうわけなのか解らないが、行って真実を確かめるしか方法は無いか…」
そういって、彼は立ち上がり、カルロスと初めて会ったとある場所へと歩いていった。

その場所は、その山地からさほど距離の無い場所にあった。その場所は、あたりには何も無い草原…のはずであった。だが、その場所にはなぜかひとつの神殿があった。柱などは何本か崩れているが、最近に作られた様子である。
「誰がこんなものを……」
彼が疑問に思ったその時…
「待っていましたよ。灼熱のハンター。」
彼の背後から、一人の天使が突如現れた。高校生ほどの背丈で、眼鏡をかけている普通の少女である。……その背中に天使の羽が無ければの話だが。
その気配に気づき、振り返るザナクラウス。
「待っていた…だと?…じゃああの言葉もお前が刻んだのか?」
「確かに刻んだのは私。でも、あの言葉を言いたかったのはカルロスよ。」
彼のすごい圧力にひるむことなく、その天使は続ける。
「……ついてきて。カルロスから預かってるものがあるから。」
そういって、天使は神殿へと入っていく。ザナクラウスも、無言で天使に続いて中へ入る。

神殿の中は、外見とうって変わって一切壊れている場所は無く、そして聖なる力で包まれていた。おそらく、彼等以外この神殿には立ち入ることができないのであろう。
神殿の最深部に、一本の剣が台座に納められていた。その剣は、六連発リボルバー銃の銃身と剣が合わさった特異な形をしていた。
「こいつは…バーニングハート!何故この剣がここに…あれはカルロスと一緒に埋めたはず…」
「彼が持っていたのは偽の剣。彼は本物の剣を私に預けて、「俺が死んだら、ザナクラウスにこの剣を渡してくれ」って頼んだの。」
剣を見て驚く彼に、天使はそう言う。
「…まさか、カルロスは自分がカオスに勝てないことを予測して……」
「…そこまでは解らないわ。でも、あなたにカオスを倒す役目をたくしたのは確かね。」
しばらくの間、その場に沈黙が流れる。沈黙を破ったのはザナクラウスであった。
「預かってるのはこれだけか?」
「…ええ。」
彼の問いに、天使は静かに答える。
「……剣を抜きなさい。今のあなたなら使いこなせるはずよ。…その代わりと言っては何だけど、あなたのフレイムソードを代わりに収めてくれるかしら?」
天使がそう続ける。彼は言われるがままに台座へと近づき、剣に手をかける。手をかけた瞬間、彼の手は炎に包まれたが、そんな事は気にせずに剣を抜く。
剣を抜ききると同時に、炎は消滅した。
「…どうやら、俺は選ばれたようだな。」
彼は剣を間近で眺めつつ言った。
「これで、あなたはカルロスの力を受け継いだことになるわ。…さあ、あなたの剣を収めてくれる?」
再び言われるがままに、自分の使っていた剣を納める彼。納め終わると、天使は言った。
「……行きましょう。もうここにいる必要は無いわ。」
天使はそう言って、神殿を出て行く。ザナクラウスも天使についていく。

神殿を出たところで、唐突に天使が言った。
「その剣と対になる剣、『サイレントムーン』を探しなさい。いずれ、大きな力となるわ。」
「…解った。『サイレントムーン』だな。覚えておく。」
「それと、自己紹介が遅れたわ。私はリューネイ=アルファロウ。そして、秋月美幸(アキツキ ミユキ)。よろしく。」
「そうか。俺はザナクラウス。よろしくな。」
そう言って、二人は固い握手を交わす。
そして、二人はその場を去っていった…

ラボを出てから5日後、彼はラボに帰ってきた。
「あ、やっと帰ってきましたね。早速手伝ってほしいことが・・・」
「悪い、後にしてくれ」
ザルツがようやく帰ってきた彼に何か頼もうとしたが、彼は一言だけ残して足早に自分の部屋に入っていった。
そして、懐に隠してあった写真を取り出した。その写真には、ザナクラウスとサラ、そしてカルロスの3人が写っていた。
その写真を握り締め、どこまでも広がる青い空めがけて、誓うように言った。
「カルロス…お前の技は、俺がすべて受け継いだ。安心してくれ…」
彼はさらに続ける。
「そして…カオス!ゾディアーク!俺から家族、友人、仲間、故郷、そしてカルロスを奪った貴様達だけは絶対に許さねえ!」

その彼の眼からは、不安、弱さといったものは消え去り、信念を貫き通す眼、戦士の眼へと変わっていた…



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補足説明

・バーニングハート
 某ゲームの武器にそっくりな剣。斬りつけるほか、魔力を打ち出して攻撃することも可能。

・サイレントムーン
 バーニングハートと対になっている剣。現在は所在不明。

・炎龍
 セッションでも呼ぶことがあるザナクラウスの貴重な移動手段。バイクにもなるらしい。

・カルロス=ヴェイファール
 名前から解るように、サラの兄。数年前、ザナクラウス達をカオスとゾディアークの手からかばって死んだ。

・写真
 ザナクラウスとサラがいつも持っている写真。写っているのは彼らとカルロスの三人。

・カオス
 魔帝ゾディアークによって復活した混沌の女神。人を殺すことに罪悪感とかがなく、むしろ遊びの感覚で殺している。
 目的などは一切不明。

・魔帝ゾディアーク
 自らを魔帝と名乗る暗黒魔導師。カオスを操り、カルロスを殺したザナクラウス達の宿敵。

・小さな山地
 地図にも載っていない山地で、カルロスの墓がある場所。
 ザナクラウスたちはたまにここに来るようです。

・リューネイ=アルファロウ(秋月 美幸)
 掲示板に書いていたあの天使。

・ザナクラウスの故郷とか
 詳しいことは不明ですが、理想郷のようなところだったそうです。
 現在では地図からも消え去り、その場所は彼だけが知っています。





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